科学的思考

ちょっと他人の論争に口を挟んでみました。
どっちにしろどっかで科学的思考について書かなきゃならんと思ってたのでネタにさせていただきます。


池田氏*1愛国心の進化というエントリーで聞きかじりの知識をちょっと得意げに披露したのをNATROMさんが目ざとく見つけてしまって、種を守る「利他的な遺伝子」で批判してしまいました。
その内容の当否に関しては彼らに任せるとして、議論の仕方、科学的思考への態度について論及したいと思います。


当人たちの発言はそれぞれの本文を見ていただくこととして、コメント欄から少し抜粋します。


まずは池田氏利他的な遺伝子から

病院 (ご報告)
鈴木みそ先生のところでの病院の待ち時間に関する議論に、かのNATRON氏が参加されていました。NATRON氏が、建設的な議論を行うことができないことがよく示されていると思いますので、ご参考までに。
http://www.misokichi.com/2006/03/post_139.html


うん。ここでのNATROMさんは形勢が悪いですね。
病院で待たされた人「日常的に待たされるのはシステムに問題がある。診察予定時間を教えてくれるなどしてせめて待合室を離れて待つ自由をくれ」
NATROM「急患など偶発的な要因で待ち時間が長くかかる。私だって身を削ってがんばってるからこれ以上診る患者を増やせない。厚生省に文句を言って」
聴衆「厚生省にどんな文句を言えばいいかの意見をプロに聞きたかったのに...orz」
NATROMさんはなぜ待ち時間が長いのかの説明はできましたが、待ち時間を減らすための具体的で効率的な提案はできませんでした。NATROMさんにマネージャーとしての視点が備わってなかったことが原因だと思います。しかしこれは建設現場の作業員に「ビルの建設日数をもっと短くする方法を考えろ」というようなものです。作業員は自分の仕事の範囲でしか回答を出すことはできないでしょう。この質問は現場監督や建設会社のホワイトカラーに問うべき種類のものなのです。ただしNATROMさんがこの質問に答える自分自身の能力を過信していた点には非があるでしょう。


非建設的な議論 (OBUSPN)
NATROM氏による非建設的な議論の例は、以下のURLにもあります。今回も非建設的な議論にしかならないでしょうね。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20040810#p1
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20060715#p1
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20060914#p1


http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20040810#p1
血液型性格判断がトンデモであろうがなかろうが遺伝情報で差別をすることはよくないし、ましてや遺伝情報を勝手に他人に知らせてしまうことは個人情報の漏洩であるという主張で、NATROMさんは正論を根気強く丁寧に説明しています。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20060715#p1
批判対象のページがリンク切れで検証不可能でした。このエントリーを見る限りはNATROMさんに不思議発言はありません。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20060914#p1
批判対象があまりにトンデモな人なので、相対的にNATROMさんが常識人であることが強調されています。非建設的な議論になっているのは明らかにNATROMさんに噛み付いている側の責任です。


ウェブ・ストーカー (池田信夫)
いるんですよ、こういうのが。当ブログも、何度かこういうストーカーにつきまとわれたので、扱いは心得てます。彼らの特徴は
・特定の分野についてディレッタント的にくわしいが、アマチュアなので根本的な認識がずれている
・自分が無知なのに「相手が間違っている」と思い込み、どうでもいい細かい話にこだわる
・無知を指摘されても理解できず、逆上して同じ話を繰り返す
・相手にされないと、自分のブログで遠吠えを始める
最近では、慰安婦問題で意味不明のコメントをして当ブログを追い出され、しつこくブログで吠えているのがいましたが、特徴はまったく同じ。単純なスパムより、こういう連中のほうが、まったくのバカではないだけに厄介です。対策は、無視することしかない。

おっとこれは本人のコメントですね。
細かい部分のミスを指摘したのだから細かい話になるのは当然だし、そこ以外につっこむ気がないのだから同じ話の繰り返しになります。
NATROMさんが無知な可能性があると同時に池田氏も無知な可能性があります。
池田氏は自分の土俵で勝負しないのだから、NATROMさんは自分の土俵で声明文を読み上げるしかしようがないです。遠吠えされるのが嫌なら自分のブログへのコメントを削除するべきではないし、自分のブログに載せたくないのならば遠吠えされるのは許容するしかありません。


次はNATROMさんの池田信夫氏からの反論からです。

Evreux 『池田さんはある種の能力や知識という点でかなり優れた方で、情報源として有益です。しかし知的な誠実さ?が欠けていることがこれまでの活動で明らかになっています。長く議論されず適当に切り上げることをお勧めします。』


僕も同意見です。池田氏はそれなりに知識を持たれている方なので、時々はいいことを言います。時々トンデモなことも言います。その違いを見極める能力を持っていない人にとっては彼の発言を情報源の一つとすることはリスクが高すぎます。


地下に眠るM 『>akihiro-matsui
そのセリフ、池田ダイセンセイにいったら?
ちなみに、池田ダイセンセイのブログに僕がつけたコメントは掲載されず。
自分に都合のワリイコメントは一切掲載しにゃーという、立派な方針みたいね
池田ダイセンセイのしていることは、言論ではなく「公開オナニー」
都合のワリイ言論はすべて抹殺。最低のカス。』


気持ちは分かるが、ちょっと言葉が汚い。池田氏もコメント欄ではかなり言葉が汚いので同罪なんですが。大人なんだから互いに丁寧な言葉遣いを心がけましょう。


ところで僕のNATROMさんに対する印象は以下のとおりです。
1.お茶目なところのあるおっさん。
2.医療システムに関する問題点を現場の視点から語ってくれる。
3.科学的思考を重視している。
4.結婚したいほどドーキンス博士が好き。




で、今回のケンカ(?)の原因は当初こそ4のドーキンスでしたが、議論が平行線になる原因は3の科学的思考に関するものでしょう。
科学的思考とは突き詰めると常に「自分が間違っている可能性がある」と認識し続けることです。そのためには常に自己を見つめなおし、他者からの批判を聞く姿勢を持ち続けなければなりません。この点において僕はNATROMさんを高く評価しています。
批判を聞き入れる姿勢を維持は以下のサイクルを続けることです。
・批判の内容を理解する。
・批判が正しいと判断すればその内容を受け入れる。
・批判が正しくないと判断すれば反論する。

しかし人間は間違った判断をするリスクを常に持っていますし、批判に対して感情的な反論をするリスクも持っています。このリスクをマネージするためには以下の原則が必要です。
・批判・反論の内容を第三者に検証してもらう。
・過去に自分が間違った意見を言っていた場合は、それを訂正する勇気を持つ。
・他人が過去に間違った意見を言っていても、今回の意見が正しいならばそれを正当に評価する。
・自分が感情的になることを完全に回避できるものではないと認識する。
・相手が感情的になることを非難しすぎない。

これらの原則のうちのどれが欠けたとしても、その人は科学的思考はできません。もちろんその場合でも正しい理論を構築できる可能性はあるのですが、非常に打率の低いものになることは間違いないでしょう。
逆に言うと、これらの科学的思考のための原則を守っていれば、どんなに論理的思考能力が低くてもいつの日か真理にたどりつくことができるでしょう。


この部分において池田氏とNATROMさんの姿勢は隔絶しています。

少なくとも、彼が多レベル淘汰を理解していないことは間違いない。これについてくわしく知りたい人は、Sober & Wilson "Unto Others" (Harvard U.P.)を読んでください。もちろん、このバカなTBは削除しました。
池田氏



医師である私が生物学を語ると、『??』なことも多いかもしれない。ただ、『??』なことも多いなどと言いつつ具体的な指摘がなければ、私が間違っているのか、それとも「ケチをつけたいけど能力的に無理なので、専門家を自称してNATROMの発言の信頼性を貶めよう」という意図があるだけなのか区別できないので、適宜指摘してくださるとありがたい。どっかのブログのように、都合の悪いコメントを検閲して載せなかったり、自分の間違いが明らかになってしまうトラックバックを削除したりはしません。
NATROMさん



どちらがどっちかは言うまでもないでしょう。


しかし最後に池田氏の弁護をしておきたいと思います(池田信夫参照)。彼は有名人と呼んで差し支えない人物であり、彼のブログにも多くのコメントやトラックバックがつきます。当然その中には匿名で耐え難い罵詈雑言を撒き散らす人もいるでしょう。そんな気分の悪い文字列を自分の運営するブログの中に残しておくのを嫌悪するのは極々普通の感情です。
「そんなのネット社会では当たり前だろ。神経の細い奴がネットに出てくるんじゃねえ」という意見もあるかもしれませんが、そんな価値観の押し付けに屈する必要はありません。自分の姿を自分の美意識で飾ることは基本的人権のひとつです。

*1:敬称ですが、池田氏は「氏」でNATROMさんは「さん」にしました。きっと池田氏は「氏」で呼ばれることを好み、NATROMさんは「さん」で呼ばれることを好むだろうという僕の勝手な憶測によるものです。