娯楽直接知財 その1

娯楽直接知財の大きな特徴は情報の受信の目的にある。トリガー直接知財、ノウハウ直接知財の受信目的は受信者の行動の判断に使用することであったが、娯楽直接知財は受信だけが目的となる。別の言い方をすれば、他の二つの直接知財は受信後の行動によって受信者は効用を得ていたのだが、娯楽直接知財は受信することだけで受信者は効用を得ることができるのだ。
もちろん直接知財である限り、取引の無効化ができなかったり、取引前に受信者が効用を知ることができなかったり、取引を行うために信用醸成が必要であったりする性質は存在する。しかし、これらの特徴は娯楽直接知財の受信効用性質*1の影響により大きく変化したものになっている。


娯楽直接知財の内容
自律機械である人間がいったい何に効用を感じるかは経済学全般において永遠の謎である。たとえば我々は官能的な直接知財を受信したいという欲求を持っているが、人間と違う肉体を持っている知的存在(宇宙人や人工知能)はこの欲求が理解困難だろう。それどころか人類の約半分を占める男性の大部分にとって、女性が男性の肉体美(筋骨たくましいものや不摂生な肥満体にも)に感じる効用は理解困難だ。日本人にとってはマツタケの香りはとても心地よいが、日本人以外にとってはそれほどいいにおいではないらしい。僕は経済学の論文に知的好奇心を刺激されるが、そんなもののどこが面白いのか分からないという人のほうがきっと多数派だ。
何が娯楽直接知財になりうるかが分からないということは、裏を返せばどんなものでも娯楽直接知財になりうるということだ。青い空もタレントのスキャンダルも難解な数学も遠い宇宙の天体も明日の食事の献立もすべて娯楽直接知財になりうる可能性を持っており、そしてそれに効用を感じる人間が一人もいないのであれば娯楽直接知財とはならない。
そうは言っても同じ人間である。ある程度は相手が何に効用を感じるかは推測できるし、自分がどのような情報に効用を感じるかも推測できる。もちろん推測はあくまでも推測でしかなく、自分を含めて自律機械の反応は事後的にしか確定はできない。だがやっぱり推測はできるし、文明が進めば進むほど娯楽直接知財の打率は向上するし、技術革新によって今まで制作不可能だったものや流通不可能だったものも、娯楽直接知財として流通するようになっている。


娯楽直接知財の効用発揮のタイミング
娯楽直接知財は受信時に効用を発揮するのだが、例外は当然ある。受信したときには何がいいのか分からなくても、ある日突然にその良さが分かることがあるからだ。
たとえば僕は俳句が好きなのだが、その中でも一番好きなものが芭蕉の「閑さや岩にしみ入蝉の声」だ。ある人がこの俳句を受信してもその時点ではその良さが分からないかもしれない。しかしその人が静かな森の中で蝉の声を聴いた瞬間にこの俳句のすばらしさを分かるかもしれない。
この効用の遅延現象を第四次産業論的に説明するのは難しい。いくつかの説明方法が存在し、一義的に決められないからだ。一番簡単な説明は「娯楽直接知財が主体内で蓄積されて後日効用を発揮した」である。もう少し複雑なものは「何らかの情報を蓄積した主体が同じ主体に向けてその情報を発信し、その主体がその情報を娯楽直接知財として受信し効用を感じた」となる。アクロバティックに解釈すると「主体が効用を感じるノウハウ直接知財を受信蓄積し、それが効用を発揮するシチュエーションにおいて目的どおりに効用を発揮した」となる。原理主義的に解釈すれば「トリガー直接知財を受信蓄積し、あるシチュエーションでその直接知財が自律機械に効用を感じるという行動を起こした」でもいい。
個人的にはこのような解釈論に大きく踏み込むことは好きではない。無意味だとは言わないが、得るものが小さすぎると感じるからだ。直接知財の分類は便宜上のものであり、本質的に切り分けられるものではない。結局のところ言葉遊びにすぎないというむなしさがつきまとってしまう。しかし将来的にこの分野の研究が進めば、こういった解釈論を専門とする研究者も現れてくるだろうし、それが重要な発見に繋がる可能性も否定できない。しかし今のところは「娯楽直接知財が主体内で蓄積されて後日効用を発揮した」ということにしておこう。
ただしほとんどの娯楽直接知財は受信時に効用を発揮する。その理由の一つは、そういった性質を持つ直接知財が娯楽直接知財であると僕が定義づけしたというみもふたもないものだ。もっと正確に表現するならば、受信者が受信した直接知財にどのような効用を感じるかによって直接知財の種類が決定し、受信することだけで効用を感じるものが娯楽直接知財であるということだ。

*1:この第四次産業論(と呼ぶよりかは情報経済学と呼ぶべきかもしれない)の構築で困っているのが専門用語の作成である。この分野の体系的な研究はまったくといって行われてはおらず、当然専門用語も存在しない。そのため毎回毎回僕が専門用語を考案して論文を書き進めなければならないのだが、なかなか完璧な専門用語を毎回作成できるというわけにはいかない。この単語(受信効用性質)などは失敗作もいいところだ。しかし専門用語を使用して文章を圧縮化しなければ、「冗長な文章になる」「読みやすい文章にならない」「専門用語をあてはめるべき特別な概念であることが伝わらない」などの問題が発生する。後進の研究者たちはぜひとも適切な専門用語を考案してほしいものだ。