地方空港改造計画

注意:この文章の内容は綿密な取材に基いておらず、憶測で書かれています。この文章は「どのようにものを考えればいいのか」の検討のみを目的としていることを承知ください。


地方空港にドライブがてら寄ってみた。
近隣の大都市圏から特急で2時間ちょっと、高速道路で4時間くらいの距離にある都市の空港だ。羽田と一日四往復の便だけしか運行していない。
その空港に着いたのは夜の七時だったので、到着便が一便残っていただけだったため、空港の中に客らしき人物は一人だけベンチで新聞を読んでいた。ターミナルビルは二階建てで、屋上が展望用に開放されている。
一階にはチケットカウンター、到着ロビー、レンタカーのカウンター、観光案内のカウンターがある。チケットカウンターの間口は三間ほどだろうか、一人の女性社員が座っていた。レンタカーのカウンターは二間ほど、これも一人の女性社員が待っていた。到着ロビーの照明は落とされており、観光案内も20種類ほどのチラシがおいてあるだけだった。
階段を上がると(エスカレーターは止まっていた)出発ロビーと売店があったが、出発便はもうないために両方とも無人だった。屋上は当然のように無人で、滑走路方面を見ると搭乗橋が二つある。これも当然だが飛行機は係留されていない。外は暗く、若干霧がかっていたので景色はまったく見えなかった。
あまりにも何もないので帰ろうとすると、ちょうど同じように帰ろうとしている人が5人いた。制服を着ていたので空港職員だろう。しかし、チケットとレンタカーのカウンターの担当者はそこに座ったままだった。多分管制塔の職員数名も到着便が無事着陸するまでは仕事が終わらないだろう。
赤字空港の典型だ。もっとも運行便は往復とも最終便は満席予約されており、午前中の便は166席中30席以上の空席が残っているが、路線の採算ラインといわれる搭乗率7割は確保されているだろう。開港はかなり古い空港のため、建設費の負担は小さいものだろう。年間30万人強の述べ利用客数による運賃収入は約60億円程度になる。仮にそのうちの5%が空港の収入になったとして、その金額は同じ面積の農地の収入とだいたい同じ*1になる。空港の固定資産税は莫大だし、人件費も年間一億はくだらないだろう。光熱費も修繕費もなにもかもが利益を圧迫する。
細かい数字を検証して政治の怠慢を糾弾するのは、このブログの趣旨ではない。僕がやりたいのは、どうすれば利益が上がるのかを考え、なぜそれができないのかを考えることだ。
もちろんベストはこの空港を閉鎖してしまうことだ。そうすれば特急でさらに一時間ほどの距離にある別の県の空港に乗客が集中することだろう。利用客は大きく困ることはないだろう。経営資源の効率化によりコストダウンが行われ、それが運賃の低下に繋がるならば利用客の効用は逆に増えることになるだろう。
しかしもちろん政治的な理由で空港の閉鎖はありえない。それどころか次々と無駄な空港が増えている。空港を閉鎖せずに赤字を縮小するためには経費を削減することしか方法はない。収入は現状で頭打ちで、それどころか今後漸減していくことだろう。
第一に削減対象になるべきは人件費だ。12時間ほどの営業時間に8便しか発着がない。明らかに暇な時間が大量に余っている。この無駄な時間に支払われている人件費を削減しなければならない。そして労働者を削減すると、人件費以外の無駄な経費が大きく削減されることは常識だ。
僕の計算では16人の職員でシフト勤務を行い、人件費の総計は6千万円強になる。ぱっと想像したところでは25人程度の職員で一億2千万円ほどの人件費なので、半分くらいの合理化になるわけだ。ここまで削減すると労働強化だと騒がれるだろうが、冗談ではない。それでも明らかに楽な仕事だ。専門職の4人以外は近辺に在住の兼業農家のパート仕事で十分に間に合う。そして仕事の内容に合わせた給与を支払ったとすれば、上記の金額で間に合うはずだ。
事業の効率化を図ることは、現状の空港での仕事内容を確認することから始まる。
羽田からこの空港へ飛んでくる旅客機を管制官が誘導して着陸させる。着陸後、旅客機が搭乗橋に接続されるには、地上の誘導員と搭乗橋の運転員が必要だ。旅客機のハッチが開き、乗客が到着ロビーに移動する裏では、手荷物が機体から搬出され到着ロビーのベルトコンベアに載せられる。到着ロビーから乗客が外に出るためには、他人の荷物を場違って持ち出さないかと空港職員に確認される必要がある。
旅客機の乗員と空港の職員は機体のチェックを行い、補給物資(燃料・客室用補充品)を積み込む。
乗客はチケットカウンターでチケットを購入し、座席の指定を受け、手荷物を預ける。飛行機の搭乗時間が来るまで、ロビーで退屈そうに時間をつぶし、売店で買った新聞を読む。金属探知機と手荷物のX線チェックを行い、搭乗ロビーに集合する。搭乗橋手前の自動改札機を通り、搭乗橋を渡って機内に乗り込む。地上誘導員と管制官の指示に従い、旅客機は滑走路に進入し、管制官の合図と共に離陸する。離陸後は空港の管制官の支持を離れ、航空管制局が飛行機を誘導することになる。
このフローの中で一つ、ナンセンスな業務が混じっている。それは搭乗橋の前の自動改札機に航空券を通す場面だ。これが完全に無人で行われるならばいまさら文句をつける必要はないのだが、なぜか(保安上の理由かも)この改札機には2人ほどの空港職員(航空会社社員かもしれない)が立ち会ってる。
羽田空港のような大きな空港ならばこの人員配置にも納得がいく。何機もの旅客機の搭乗客が一度に同じ搭乗ロビーに存在しているからだ。まちがって他の飛行機の搭乗客を乗せてしまうトラブルを防ぐことと保安目的ならば人員を配置するコストは割に合うだろう。しかしこの空港には路線は一つしかなく、それも3時間に一度しか離陸しないのだ。それならば手荷物検査と航空券の改札を同時に行ってもかまわないではないか。
次にフローを改善する部門はチケットカウンターと売店の結合だ。はっきり言ってチケットカウンターの担当者はほとんど仕事をしていない。預かり手荷物にシールを貼るくらいだ。売店も利用客数の規模を考えると人数を減らしたいところだ。
正副の管制官とその交代要員だけはいくら暇な仕事でも減らすわけにはいかない。しかし、あきらかに暇な仕事なので他の仕事も兼任してもらう。大部分は事務仕事になるのだが、重大責任を追うべき場面にも出向いてもらうことになる。正社員でなければ責任を負うことはできないからだ。もちろん一番重大な責任は彼らの本業である管制業務だ。そして次に重大なことがテロリストの摘発だ。
テロリスト対策をしている限り、テロリストが地方空港に現れる確率はほとんどゼロだろう。しかしテロリスト対策をしなければ必ず来る。絶対にテロリスト対策は必要なのだ。そして、非常に確率は低いもののテロリスト対策には命の危険がある。このような危険な現場の責任者に派遣社員やパートタイマーをあてるわけにはいかない。
こうして配置した人員を再度確認してみると以下のようになる。
・チケットカウンターおよび売店 一名
・正副管制官 二名 正管制官は空港長を兼任、副管制官は搭乗到着手続き責任者を兼任
・搭乗到着手続き担当者 二名 事務仕事も当然兼務する
・空港地上業務 二名 設備の保守点検を兼任する
・予備要員 一名 人数が少ないため予備人員は重要。普段は事務を担当
この八名で空港の一連の業務の遂行は可能なはずだ。そして一日12時間、週7日の空港業務を行うためにはその倍の16名でシフトを組むことになる。正副管制官の4名のみ正社員とするならば彼らで年間2500万円、残りの12名はパート、派遣、アルバイトでまかなえば一人300万円で3600万円、合計6100万円だ。実際は派遣社員の正社員化や社会保険費用などが必要なため、8000万円くらいに膨れ上がるかもしれない。それでも大きなコストダウンであることは間違いない。
これだけコストダウンすれば空港は単体で黒字化することも可能だろう。もしもこれが通常の民間企業だったならば、この程度のリストラは確実に行っている。行わなければ倒産するしかないからだ。しかし地方空港はこのようなリストラは行わないだろう。なぜだろうか。
コネで採用した職員をリストラできないとか、そもそもリストラを断行する責任者がいないとかいった政治的な理由ばかり考えついてしまう。しかしこれらの問題を解決するのは政治学者と有権者しかいない。僕のような経済学者の出る幕ではない。もう少し考えてみよう。
地方空港が独断でリストラできないのかもしれない。安全上の問題とかで、どういったシステムにしなければならないか、そしてどの部門に最低どれだけの人員を用意しなければならないかが規制されているのではないだろうか。それで人数合わせのために無駄な人数が水増しされているのではないか。きっとそうだ。
もちろん安全基準・保安基準というのは大事だ。どれだけ合理化で利益をあげようが、事故が起きればすべては台無しになってしまう。しかし羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くこと*2もまた愚かな行為だ。
新幹線、高速道路の建設やローカル線の電化により、ほとんどの地方空港は大なり小なり経営上の危機を迎えている。このまま巨大空港向けの保安基準を地方空港に適用し続けたならば、地方空港が次々と倒産して国内航空産業が崩壊してしまう。その結果は国際線にも影響が出る。国際競争から保護された国内線という市場を持っているから、日本の航空産業は国際航路に路線を確保できるのだ。そう考えるならば、航空業界が新しい保安基準を考案して国土交通省に提案すべきではないだろうか。
また、地方自治体も同じように新しい保安基準を国土交通省に提案するべきだ。特に新しく空港を建設しようとしている自治体は何が何でもするべきだ。それらの自治体はまさか空港の雇用能力を期待して空港を建設するわけではないだろう。たぶんに彼らは単純な名誉欲と、空港建設による土建産業の利益を目的としているはずだ。その目的を全うさせるために議会を納得させるネタがこの新保安基準だ。


うーん。政治の話になったとたんに尻すぼみになってしまった。親方日の丸の連中は暴走族の話のときと同じで経済学的合理性が足りないから話にならない。あまりに話にならないのでジャンル分けに[経済学]を入れるのをやめにした。

*1:計算にもよるが、水田でぎりぎり同じくらいの収入になる。

*2:漢字が読めなかったので振り仮名をふりました。