正倉院展

奈良国立博物館正倉院展を見てきた。最近、古代史における産業構造を調べているので、奈良時代の産業の技術や交易状況を知る手がかりになればと考えたのだ。本を読むことも大事なのだが、実物を見ることによって得られるものは大きい。
今年は非常に来場者数が多く混雑が予想されているとのことで、開場30分前の8時30分に行ったらすでに60分待ちの行列ができていた。博物館側の粋な計らい*1で会場時間が早められたみたい*2で結局9時半過ぎに中に入ることができた。中はまだそれほどの混雑ではなく、一応すべての宝物を間近に見ることができた。


発見
・字が下手な古文書が混じっている。
惚れ惚れするほどの達筆で誤字どころか字の配置のゆがみすらない文書に混じって、僕よりも下手*3なのではないかと思うほどの字の下手さで、誤字を墨で塗りつぶし、字が躍っている文書があった。
当時は字が書けること自体がエリートの証で、さらに達筆という条件をつけると人数は非常に少ないものになったのだろう。誤字が存在しない文書は、誤字が発生した時点で紙そのものを破棄することで存在しえたのではないか。そうすると、貴重な人材と貴重な紙を大量に必要とする経文は、中身の経文(間接直接知財)のすばらしさを抜きにしても十分に宝物の資格があると思う。
・工具の技術レベルが高い。
かなりの硬度の鋭い刃がなければ作れないような金属製品(銅鏡など)があった。硬度の高い鉄を生産することは難しく、加工も難しい。ここで洗練蓄積された技術は民生技術にフィードバックされていくことを考えれば、当時の民間の金属加工技術レベルはかなり高かったことが伺える。実際、この技術が大仏殿や国分寺の建造に役立ったことだろう。
・染色技術が低い。
現代の伝統工芸の染色技術と比べると、月とスッポンほどに出来が違っていた。多分、染色後の定着技術も低いことだろう。
・皮加工技術は不明。
皮の裁断・縫製技術は悪くないと思われる。ナメシ技術に関しては経年変化が激しすぎて分からなかった。

*1:ルールに縛られない関西人のよさがここに現れている。関西人は行列を非常に嫌うために、長い行列を放置していたら暴動がおきかねないのだ。

*2:入り口は遠い向こうの人々の海に隠れていたので実際のところ開場が早まったのかどうかは確認できなかった。ただ、開場していなければ動くはずのない行列がじわじわと前に進んでいったことは確かである。

*3:僕の字のうまさのレベルは100点満点で65点くらいかな。