トリガー直接知財 情報の蓄積と行動

受信者に何らかの行動を起こさせる信号としての情報が直接知財である。
社会に流通している直接知財のほとんどはトリガー直接知財であるが、概念が若干抽象的なためとっつきが悪い。性質の分類に基いて代表例を挙げていきたい。


行動を起こさせるための発信・受信によって行動が起きる
・「ごはんですよ」と主婦が呼びかける → テーブルに家族が集まる
・上司が業務命令を出す → 部下が命令に従って行動する


行動を起こさせるための発信・受信内容が蓄積される
・「早く起きなさい」と母親に起こされる → 起きなければならない時間だとの情報が蓄積される(まだ寝てる)(→ 5分後にセットした目覚まし時計がなってから起きはじめる)
・取引先から値下げしなければ取引中止だと言われる → 取引は継続されると見切って値下げに応じない (→ 他社が値下げに応じそうだとの情報を入手する → 値下げを実行する)


行動を起こさせるための発信・受信内容が変質する
・親から「嘘をつくな」と叱られる → 次からは嘘がばれないようにしようと思う
・(サービス残業をさせようと)上司が「残業時間を減らせ」と命令する → 仕事を中途半端にしたまま帰ってしまう


取引による発信・受信によって行動が起きる
・「今日は雨が振る」という天気予報が流れる → 傘を持って出かける
・「原油価格が上昇した」という情報が流れる → 製品の値上げを行う


取引による発信・受信内容が蓄積される
・台風による災害のニュースが流れる → 台風で怪我をすることがあるとの情報が蓄積される (→ 台風が来る → 頑丈な建物の中でじっとする)
・本社から売上状況が知らされる → 「売上高は伸びているが利益率が悪い:例」との情報が蓄積される (→ 「もう少し値下げしてくれたら買うのに」と顧客から言われる → 値下げに応じない)


意図しない発信・受信によって行動が起きる
・子供のおなかがぐーと鳴る → 母親(もちろん父親でもかまわない)が夜食を作る
・顧客の仕事場で改善点を発見する → それを改善するための商品を提案する


環境からの発信・受信によって行動が起きる
・目覚まし時計が鳴る → 起きる
・渋滞にはまる → 待ち合わせに遅れそうだと顧客に電話を入れる


環境からの発信・受信内容が蓄積される
・今年の夏は晴れた日が多く気温も高い → 秋の果物が甘いだろうとの情報が蓄積される (→ 結局食べないかもしれない)
・今年の夏は晴れた日が多く気温も高い → 秋の果物の取引額が大きくなるだろうとの情報が蓄積される (→ 果物取引のための予算を大きく取る)


単独で即座に直接の行動を引き起こすトリガー直接知財はあまり多くない。ほとんどのトリガー直接知財は受信者の内部にとりあえず蓄積される。その後、他のトリガー直接知財*1と組み合わされて行動に結びつく。もちろん蓄積されたまま忘れ去られたり時期を逸したりして、結果的に無視されるものが大部分だ。
蓄積された情報は主体の内部で因果を分析された結果、間接知財が形成されるという、ノウハウ直接知財として機能する場合もある。
このようにトリガー直接知財がもたらす結果は受信者によって大きく変化されるために、その価値を判定することは非常に困難である。また受信者は、受信後でなければその価値を判断することはなかなかできない。さらに受信後に価値が定まったとしても、そのときにはそのトリガー直接知財は受信者の所有するところとなっているために、わざわざ発信者に対価を払うインセンティブが失われている。こういった性質からトリガー直接知財は、知財とは名ばかりでほとんど金銭を介在させる取引が行われていない。
しかし受信者は自身の行動決定の判断材料のためにトリガー直接知財を欲している。さらにそのトリガー直接知財が受信者にとって質の高いものであればあるほど有用性は増す。そういった情報に大金を支払ってもいいと考える受信者は多い。しかし受信前の受信者がどのように考えていようが、受信後の受信者は大金を支払わないだろう。
そして金銭的対価を受け取ることを期待できない発信者は当然のように有用性が高いと思われるトリガー直接知財の発信を控えるようになってしまう。このような悪連鎖の結果、情報の流通量の縮小が発生すると、人々は正しい判断材料を持たないために効用の高い行動が行えず、社会全体の効用そのものが縮小することになる。
より効用の高い社会を建設するためには、トリガー直接知財の取引インセンティブ向上のための技術が必要とされている。そしてこういった典型的な市場の失敗に対しては、ゲーム理論を適用することがもっともうまくいく蓋然性が高い。

*1:自律機械である受信者の内部から発せられる場合もある。