トリガー直接知財 情報の取引 その7

情報取引の市場形成


情報取引におけるサドンデスのゲームで、ゲームが終了する条件にはいくつかがあったが、今回は双方の価格提示が折り合わない場合について考えてみよう。
価格形成のメカニズムについてはほとんど通常の財と同じである。情報取引の場合、信用形成のために(特に初期においては)大きなコストを支払わなければならないが、これに関しては装置産業における大きな固定費と同様に考えることができる。
基本的にこの信用形成コストは個別の取引関係ごとに支払わなければならないが、他の主体との取引の実績を提示することで、新たな取引先との信用醸成コストはそれまでのものと比べると低く抑えることができる。
そうすると当然複数の発信者が受信者の取り合いをする状況が生まれてくる。市場の誕生である。
また優秀な発信者に複数の受信者が情報発信の依頼をする状況も生まれてくる。どれだけ情報の発信を行っても発信者の所有する情報の量は減らないために、発信者は少しくらい低い価格をつけても大量の受信者と取引を望むようになる。その結果、受信者はさらにその優秀な発信者に殺到するようになり、発信者市場の寡占化が起こるようになる。
寡占化はさらに進行し、最終的には一つの情報発信者が市場を独占し、受信者はその発信者と永続的な取引を期待し、発信者は別の発信者が市場に参入できなくなるほど安価に情報を発信し続ける。ついそのような独占市場を想像してしまうが、実際にはほとんどありえない。
1.情報の種類は無限に存在する
情報が無限に種類があるため、どんな発信者も受信者が必要とする情報のすべてを提供できない。そのため、どんなときでも新しい発信者に市場参入の機会と需要が与えられる。
2.情報の希少性が失われる
一つの発信者から発信される情報の種類は有限であり、その情報が何度も複製されて市場へ発信されると、その情報の希少性が薄れ財としての価値が低くなる。そうすると相当に安い価格をつけたとしても受信者はその情報を購入しようとは考えなくなる。また、ある情報が大量に市場に発信された場合、その情報を入手した受信者が別の受信者に横流しを始めることもある。その新しい発信者は自分自身でその情報の価値をすでに享受しているために、別の受信者に発信する場合に大きな対価を要求しなくても、十分に元は取れる。そういった海賊版の情報流通を防ぐことは非常に難しい。
3.競争がない場合、発信者を信用できなくなる
情報の信頼度を高める一つの方法に、情報の裏取りがある。情報発信が独占ないし寡占された場合、発信された情報が真実なのかどうかを受信者が確かめる手段が大きく制限されてしまう。また、ゲーム理論的に市場を独占したプレイヤーが次に行うのは価格の吊り上げか品質の低下だ。発信者が情報の質を低下させることが明白に予想できるとき、発信者が受信者に信用してもらうために支払うコストは大きなものになる。そのため、情報の生産や流通にかかるコストは大量発信により薄まったとしても、信用醸成コストが増大し、新規参入を防ぐだけの低価格を維持できなくなる。


このように市場が成立すると、今度は市場を効率化させるための中間業種が求められるようになる。生産者と消費者をつなぐ産業、つまり流通業の発達だ。
知財の流通業には大きく分けて2種類が存在する。流通業者が情報の改変を行うかどうかで大きくその性格が違ってくる。
・情報の改変を行わずに流通する
一般に情報産業と呼ばれている産業のほとんどがこれに該当する。いや正確には、一般に情報産業と呼ばれている産業が会計上生み出している付加価値の大部分がこの分野に所属する産業のものである、と言うべきだ。
僕は「会計上」という言葉に若干悪意を込めている。本来、情報の価値は情報を生産した主体が生み出しているのであるが、第四次産業の性質上、情報を流通させているだけの主体がその利益を搾取し、会計上で彼らの利益として計上している。この部分の利益分配システムを組み替えることで情報生産者の利益を向上させ、彼らのインセンティブを増やすことが情報生産量を向上させ、結果的に社会の効用の増大につながるのではないかと僕は考えている*1
この種類の流通業者は情報の内容には責任を負っていないため、結局流通される情報が信用できるものかどうかは、その両端の発信者と受信者の関係によって決まってくる。
・収集・蓄積した情報から新しい情報を生産し、その情報を発信する
自律機械である主体が情報を収集・蓄積し、そこから新しいトリガー直接知財を生産してそれを発信する産業だ。この中間発信者は大元の発信者と信用醸成を行い、最終受信者とも信用醸成を行う。この中間業者の存在によって最終受信者は大元の発信者が信用できるかどうかを心配する必要がなくなる。こうやって社会全体の信用醸成間係数が減ることによって社会全体で信用醸成にかけているコストが削減され、社会全体の効用が増大する。つまりこの中間業者は情報の卸売業を行っているのだ。

*1:ただし僕の思想が間違っている可能性もある。物質財の価値の大部分は生産者が生み出しているのだが、流通業者が大部分の利益を搾取していることに苦言を呈している古い種類の経済学者の轍を踏んでいる可能性があるからだ。物質財においては流通業者の利益が向上して彼らのインセンティブが増えることで、社会の効用が増大したという歴史を忘れてはならない。