トリガー直接知財 信用醸成 その9

低信用醸成度での取引 その2


・複数の相手から情報を受信する
耳を疑うような情報を知らされたとき、多くの人はその情報が真実であるとすぐに信じることはできない。また耳を疑うほどではない情報も、常日頃嘘をついている人の口から出たものならば、やはりすぐには信じることはできない。後者の場合には単純に発信者の信用醸成度が低く、前者の場合も情報の内容に見合ったほどの信用醸成が行われていなかったと見ることができる。
そういった低信用醸成度の発信者からもたらされた情報を信用するための方法に一つがその情報の裏取りだ。いくつかの情報源にあたってみて、その多くが同じ情報を発信していたとしたらその情報を信用する大きな理由になる。
たとえばテレビで集中豪雨からの避難命令を知らされた人は、ラジオやインターネットで情報を収集しようとしたり、窓の外の天気を確認したりするだろう。逆にテレビを信じきっている人は、自分の家が対象地域でないことにも気づかずに慌てて避難を始めるかもしれない*1
裏を取るために臨時で取引をする発信者は、日常の情報源にしている発信者ほど信用醸成が進んでいない。しかしより低い信用度の情報でも、メインの情報源からの情報の信用度を高めることができる。そしてその実績が、それぞれの発信者に対する信用醸成度を高めることだろう。もちろん逆にそれぞれの情報源からの情報が矛盾したものだったら、自律機械である受信者がどの情報を自分の行動のトリガーとするかどうかは神のみぞ知るといったところだ。
この方法はわざわざ僕が紹介しなくても、誰もが日常的に行っている。しかしそこに落とし穴がある。これは詐欺に使われる常套手段だからだ。
耳を疑うようなうまい話を聞かされた後、(関係なさそうに見える)別の人物からも同じ話を聞かされたら、ついついその話を信じてしまうのは人間の普通の習性だ。しかし二人目の人物の発言が仕込まれたものだったらどうだろうか。それは実際には単純に一つの情報発信者から発信された信用度の低い一つの情報でしかない。これを最近に作られた専門用語でソースロンダリングという。
多くの発信者が同じ情報を発信しているという理由だけで、情報を信用してしまうことはリスクが大きい。。少なくとも、それぞれの発信者がまったく独立して情報を生産していると信用できなければ、それは一つの発信者から流される一つの情報として捉えるべきだ。特にそれが受信者の重要な行動のトリガーとなるのならば、このような安易な方法だけで信用醸成度を高めてはならない別の手段を併用してその情報を信じる理由を見つけ出さなければならない。
各発信者が完全に独立して情報を生産している場合でもやはり確実な信用を置くのは難しい。詳しくは常識間接知財の項で述べることになるとは思うが、彼らが情報を生産するのに使用した間接知財が同一のものだったら、意図せずに同じトリガー直接知財を生産することは十分にありえることだからだ。この常識の罠から逃れることは非常に難しい。このトリガー直接知財の信用度を受信者が独自に調査しようとしても、受信者が調査に使用する間接知財もまた同じ常識間接知財である場合が多いからだ。
この常識の罠は、特に経済史の中に多く見ることができる。重商主義が正しかった時代、金本位制が正しかった時代、ブロック経済が正しかった時代、終身雇用制が正しかった時代。現代もまた、中央銀行制度が正しかった時代と記憶されるのかもしれない*2。これらの各時代にも常識にとらわれずに、次の時代を支えるより正しいトリガー直接知財を発信した人物は少なからず存在した。しかしそのような低信用醸成度の情報は、その情報の正しさを検証するものさしが存在しないために、逆に間違った情報であると烙印を押されてしまっていた。だがこれはやむをえないことだ。本当に間違った情報はもっともっと発信されていたのだから、そんな情報に踊らされる危険を冒すくらいなら、最初から新しいものは何も信じないことのほうが得策だっただろう。
話が脱線したが、ここで問題としているのは新しいが正しい情報の見極め方ではなく、常識となるほど多くの人から検証されて信用されているが実際は間違っている情報の見極め方だ。いやもっと正確に言うと「そういう間違った情報が流布されている可能性があるから、多くの人が言っているからというだけの理由で信用醸成を高めすぎてはいけませんよ」という話だ。そしてそういう罠があるとしても、複数の情報源から情報を受信することは信用醸成の手段としては役立つものだということは動かしようのない事実だ。


・法律の整備
はっきり言って、どのように法律を整備すれば信用醸成を高めることができるのかが、まだよく分からない。そのため、この部分は後日補完することになるだろう。
逆に法律を整備しても信用醸成を決定的に高められない理由ならいくらでも挙げられる。すでに述べたことだがもう一度列挙しておく。

  • 取引を完全に無効化することができない。
  • 取引内容を事前にチェックできない。
  • 個別財であるため完璧な契約書を作成できない。

最悪だ。法律の、すなわち契約の根幹となるほとんどの部分が「できない」。しかしそれでもまだひとつだけ契約成立の根幹部分が残っている。それは「契約に違反したときにペナルティを課すことができる」だ。
もちろん上に述べた条件の通り、完璧な契約書は作成できない。しかし「公序良俗」や「誠意ある態度」「通常期待しうる範囲」という武器が我々には残されている。ちゃんとした情報を受信したのに料金を支払わない受信者や、料金を受け取っておきながらガセネタを発信する発信者、意図的に偽情報を発信して受信者を操ろうとする発信者にペナルティーを課すことは不可能ではない。
情報財は個別財であるために、不法行為の事実認定は困難なものになるだろう。しかしマンパワーとコストをかけさえすれば不可能なことではないし、数をこなせば効率も上がるだろう。
だが厳格な法律は別の重大な問題を引き起こすだろう。それは「内心の自由」と「言論の自由」を脅かすことだ。
「真実・公正・中立」を謳った朝日新聞が、政治問題や社会問題で「捏造・偏見・偏向」な記事を発信し続けていることは周知の事実だ。読んでいて情けなくなることばかりだ。しかしこの歪曲記事を処罰する法律は作るべきではない(名誉毀損は別問題)。
事後の検証で事実とは違うと分かった記事があったとしよう。しかし「真実だと思って書いた」と言われた場合にそれを処罰していいのだろうか。客観的に真実だと信じるに足る理由がなくても、「信用できる情報筋からの情報」と釈明されたらそれでおしまいだ。「間違ったことを客観的でない理由で真実だと信じてしまうこと」を犯罪であるとすることは非常に恐ろしいことだ。こんな法律ができたら、誰もが意図しない失敗を恐れて口をつぐんでしまうことだろう。
またこの新聞は北の将軍様を擁護する意見を表明する癖がある。あきらかに偏向している意見だ。一般的な意見を知りたいと考えている読者の期待を大きく外している。しかしこれも法律でさばかれるべきではない。まず第一に北の将軍様を擁護する意見を口にすることは言論の自由の範囲内だ*3。次にその意見が日本国民の一般的な意見だと信じることは内心の自由の範囲内だ。
こうした問題点を回避しながら「契約違反に対するペナルティーの適用」の法律をどのように整備すればいいか、正直分からない。この突破点だけを示して法律の専門家に任せるのが正しいのかもしれない。

*1:その昔、アメリカのラジオで火星人が地球に攻めてくるというドラマを放送したときに、それを信じきった人々がパニックを起こしたという伝説がある。いや、事実なんだけど。

*2:マネタリストのこと。僕は新古典派なので中央銀行は物価の番人以上のことはするべきではないと思っている。おっと、マクロ経済学は詳しくないのであまり書くとボロが出てしまう。くわばらくわばら。

*3:将軍様に物質的な援助をすると違法。将軍様から資金を提供されて書いている場合は微妙。外患誘致罪にひっかかるかも。