ノウハウ直接知財 ノウハウ直接知財の取引 その1

ノウハウ直接知財も情報であり、トリガー直接知財で説明をしたものと同じ情報取引に関するルールが適用される。いくつかの部分ではノウハウ直接知財に特有のルールが適用されることもあるが、それらも本質的には情報取引の基本ルールの応用に過ぎない。ここではその同じ部分、特殊な部分を確認してみよう。


ノウハウ直接知財に特徴的な性質
・事前に情報の効用の大部分が推測できる。
・情報取引と効用の発生の時間が大きく違う。
・受信コストが比較的大きい。
・同じ情報を陳腐化させずに大量に発信できる。
インタラクティブな取引が効果的である。
・情報の劣化がおきやすい。


トリガー直接知財と共通な性質
・取引の無効化ができない。
・信用醸成が必要。


事前に情報の効用の大部分が推測できる
ノウハウ直接知財の論理性
ノウハウ直接知財は受信者により自動機械的な行動をとらせることを目的としている。トリガー直接知財の場合はそのトリガーによって受信者がどのような行動をとるかを発信者はほとんど推測不可能であったが、ノウハウ直接知財の場合は受信者がとる行動を発信者が推測可能になるのだ。
受信者がどのような行動をとるかが推測できるということは、受信者がどのような効用を得るかを推測できるということだ。もちろん自律機械である受信者がそれでも不可思議な行動をとる可能性は否定できないし、その行動によってどれだけの効用を得るかも受信者の内面の問題なので客観的には測量できない。しかし、たったこれだけの情報でも発信者にとっては情報の対価の設定が非常に楽になる。トリガー直接知財にあった「受信者が大きな効用を感じたのにそれを価格に反映できず機会利益を逃した」という不満を発信者は感じにくくなるのだ。
逆に受信者から見てもこれは有利に働く。ノウハウ直接知財には四つの要素(目的・トリガー・行動・因果関係)があるのだが、このうちのいくつかの要素のみ、特に目的やトリガーを受信するだけで受信者はそのノウハウ直接知財が自分にどれだけの効用をもたらすかが推測できるようになる。
これはノウハウ直接知財が論理的な構造を持っていることに大きな要因がある。これはノウハウ直接知財そのものの論理性を言っているのではない。ノウハウ直接知財の四要素が論理的であるということが重要なのだ。「目覚まし時計に時刻をセットすると(行動)時刻どおりに起こしてくれる(目的)」というノウハウ直接知財は因果関係の部分が「時計の中の小人さんががんばって」でも「時計の中のメカニズムが働いて」でも同じ効用を受信者にもたらしてくれる。


分割取引による信用醸成
この論理性による取引成立の可能性の引き上げは「分割取引による信用醸成」である。四要素のうちのいくつかを「解読できない暗号」として発信者が発信し、その暗号から受信者が情報の価値を判断することで信用醸成が行われるという形だ。トリガー直接知財と比べるとノウハウ直接知財はその要素がはっきりと分割されているために暗号化が容易であり、受信者による部分解読もほとんど誤差がなく行われる。
情報取引の一番の問題点は何度も言うように「相手のことが信用できない」ことだ。信用できない理由はイヤになるくらい多いが、その中の大きなものに「相手が自分のことを理解していない」ことと「自分が相手のことを理解していない」がある。情報取引を成立させるためには「自分だけが知っている」をできるだけ排除しなければならない。ノウハウ直接知財の論理性はその排除に非常に有効だ。
信用醸成の手法の一つに「相手と常識を共有する」があるが、論理性は「共有される常識」と見ることができる。これにより発信者は「受信者が自分の意図どおり暗号を解読した」と信じることができ、受信者は「自分が発信者の意図どおりに暗号を解読したということを発信者は知っている」と信じることができるようになる。
さらに論理性は客観性を強く持っているために、相手が裏切り戦略をとったときに裁判で勝つ可能性を高めてくれる。そして「自分が裏切り戦略を採ると裁判で負けてしまう」ことは自分の信用度を高めることになるのだ。