ノウハウ直接知財 ノウハウ直接知財の取引 その3

受信コストが比較的大きい


「聞くだけはタダ」「知らないより知っているほうがトク」という常識は妄言に過ぎない。情報を聞くこと、情報を理解すること、情報を記憶し続けること、それぞれに心的・肉体的なコストが発生する。もちろん発信者に情報の対価を支払うというコストも多くの場合は発生するだろうが、どんな小さな情報も受信には受信者独自のコストが発生する。このコストは絶対にゼロにはならない。そしてこのコストを支払ったにもかかわらず効用を生み出さなかった情報は「知らないほうがトク」だ。
ノウハウ直接知財はトリガー直接知財や娯楽直接知財と比べて、情報の受信に大きなコストを必要とする。もちろん情報は千差万別だからほとんどコストがかからずに受信できるノウハウ直接知財もあるだろうし、受信に大きなコストのかかる娯楽直接知財もあるだろう。だが、一般的にはノウハウ直接知財の受信には大きなコストがかかる。
ノウハウ直接知財の受信コストの増大原因は以下の通りである。


情報量が多い
ノウハウ直接知財は四要素(目的・トリガー・行動・因果関係)があり、それらの要素間には論理性が存在しなければならない。論理性を記述するためには大きな情報量が必要になる。一言で済ませられる情報ではないのだ。
この論理性の記述を簡略化すればもちろん情報量は小さくできる。しかし情報を間接知財化するために受信者が支払うコストは増大し、たいていの場合は論理性を詳細に記述した情報に比べて受信者の支払うトータルコストは大きなものになってしまうだろう。


間接知財化しなければならない
ノウハウ直接知財の受信目的は自律機械への行動パターンのインストールだ。もちろん直接知財の状態のままで記憶することもできないわけではないが、その場合はまったく応用のきかない知識となってしまう。つまりは自動機械としてしか行動できなくなってしまうのだ。そして自動機械を役に立つ程度に動かすためには膨大な情報をインストールしなければならず、その受信・記憶に必要なコストは当然膨大なものになる。
このブログは心理学でも教育学でもなく経済学を論じているため詳細については割愛するが、情報の間接知財化は非常に複雑な機序で行われる。そして複雑な心的行動をとるということは心的なコストが高いということとほぼ同義だ。特に重要なことは、情報を間接知財化するために別の間接知財が自律機械内部にインストールされている必要があるということだ。「数学の方程式」を理解するためには「算数の加減乗除」を事前に理解していなければならない。コンクリート打設の技術を身につけるためには、「化学の基礎」「粘度の高い物体の攪拌方法」「効率的な水の散布方法」などを身につけていなければならない。「現代医学」を習得しようとする学生は、「化学」「生物学」などを学ぶことから始めるだろう。


受信から使用までに時間がかかり、記憶の保持が必要
前回述べたように、ノウハウ直接知財はほとんどの場合、受信から効用の発揮までの時間が長い。そして効用が発揮されるべきときにその内容を忘れてしまっていては当然役に立たない。
人間は残念ながらすぐに物事を忘れてしまう。忘れないためには定期的に記憶をリフレッシュさせなければならない。このリフレッシュにかかるコストも広義の受信コストと見なしてよいだろう。間接知財化された情報はこの手間が緩和されるが、それでもゼロにならない。


取引への影響
このように受信コストが大きいことは、ノウハウ直接知財の取引条件に影響を与える。受信者が発信者に支払ってもかまわないと感じる対価が小さいものになってしまうのだ。
たとえばあるノウハウ直接知財から受信者が手に入れられる効用が10だったとしよう。その場合、受信者は対価が10未満なら取引を成立させたいと考える。しかし受信コストが3かかるとしたら、受信者は発信者に7未満の対価しか支払う気にならないだろう。前回の「波動関数」などでは、よほど数学に向いた才能を持った人物以外は効用よりも受信コストのほうが高くなる。
別の視点から見てみると、同じ効用を受信者に与えるノウハウ直接知財なら、より受信コストが小さくてすむ情報が受信者から大きな対価を得られることになる。つまりノウハウ直接知財を発信したいと考える人物は、その情報が作り出すことのできる効用を高める努力も重要だが、その情報の受信コストを小さくする努力もするべきなのだ。