ノウハウ直接知財 ノウハウ直接知財の取引 その4

インタラクティブな取引が効果的である
ノウハウ直接知財の取引の目的は、そのノウハウを利用するために受信者の主体内に間接知財を生成することにある。「1+1=2」という単純なノウハウ直接知財ならば、直接知財のままで主体内に蓄積することは可能だが、その直接知財をどのような状況で利用すればいいのかを理解していなければ、つまりはある程度の間接知財化がなされていなければ利用することはできない。
間接知財は直接目に見えるものではないため、主体内に正しい間接知財が形成されたかどうかの判定は困難である。自動機械ならば○×問題で動作確認を行うことができるだろう。しかし自律機械は正しい知識がインストールされていたとしても状況に応じて、いや状況が同じでも違う答えを出す機械である。このような白黒がはっきりしていない自律機械の動作確認は同じく白黒がはっきりしていない自律機械によってしか行うことはできない。
トリガー直接知財や娯楽直接知財の受信の場合は、受信者は発信者に要求することは情報を発信することだけだった。その情報をどのように解釈するかは受信者の自由であり、発信者の心の内面などは斟酌する必要がなかった。しかしノウハウ直接知財の受信においては、受信者は目に見えない発信者の心の内面を理解しなければならなくなる。この特徴によりノウハウ直接知財の受信には受信確認が必要となる。受信確認は受信者自身が独自に行うことも可能だが、正確な間接知財保有している発信者の協力を得ることができればより確実なものになる。
このように発信者と受信者が相互に情報をやりとりすること、つまりインタラクティブな取引が行われる必要度が高いことは、発信者が受信者に対して与信しやすくなることを意味する。受信者は情報を入手した後、対価を支払わずに取引を終了させることができない、つまり繰り返しゲームを意味するからだ。
だがこの特徴は発信者にとって都合がいいことだけではない。繰り返しゲームを要求されるということは、発信者が情報の発信に際して複数の行動をとることを、つまりは多大な発信コストを要求されることだからだ。しかもその行動が自律機械的な行動であるため、より大きなコストを必要とされることになる。自律機械的な行動を起こすためには、必要な間接知財を所有している高コストな人的資産を投入しなければならないということだからだ。



情報の劣化がおきやすい
このように受信確認を行わなければならないということの裏を返すとノウハウ直接知財の受信時には情報の劣化が起きやすいということだ。
情報の劣化とは発信された情報と受信された情報の間に食い違いが発生するということであって、必ずしも情報の価値が下がることを意味しない。場合によっては情報が誤解されたおかげで新しい価値を生み出すこともあるだろう。例えば遺伝子の突然変異は遺伝子情報の劣化であるが、これが新しい進化となり、今日の進化の一つの頂点である人類が生まれる要因となっている。
しかし遺伝子の突然変異がそうであるように、ほとんどの情報の劣化はその情報の価値を落とす結果になる。そのため受信者はノウハウ直接知財の受信において情報の劣化が起きないように努力することになる。努力の一つは上述しているようにインタラクティブな取引を行うことだが、他にも以下のような努力が行われる。


複数の発信者から同じ目的のノウハウ直接知財を受信する
複数の発信者からそれぞれ少し異なるノウハウ直接知財を受信し、それぞれから間接知財を生成する。本来ならば生成された間接知財は同じものにならなければならないのだが、これが違っていた場合、受信に際して情報が劣化した可能性が生まれる。その可能性に気づいたならば、発信者に問い合わせること(インタラクティブな取引)で情報の劣化を修正することができるだろう。
またこの方法は、もともとの発信者内部にあった間接知財自体が劣化していることを見つける手段にもなりうる。もともとの間接知財が違うものならば、そこから生成されたノウハウ直接知財も、そしてさらにそのノウハウ直接知財から受信者内部に生成された間接知財も違うものになって当たり前だからだ。
しかしソースロンダリングという信用醸成の罠が待ち構えているリスクは承知しておかなければならない。


受信者内部での受信確認能力を高める
受信者内部により多くの間接知財があるならば、生成した間接知財の正確性を検証する能力が高まる。もちろんこの場合も、発信者内部で間接知財が劣化していることを発見することが可能になる。
ただしこの方法は、そして上述の「複数の発信者から受信する」も信用醸成の罠に陥る危険をはらんでいる。今までの常識を覆すような新しいノウハウ直接知財の受信確認ができないからだ。まったく新しい知識は他の発信者から受信することはできないし、当然受信者内に保有されている常識とも食い違う。そのため受信者は受信に失敗したと感じるか、発信者が根本的に間違っていると判断してしまう。
信用醸成の罠の回避は二つしかない。単純に受信者の理解力を高めるか、発信者に受信確認を依頼するかだ。そして後者の場合でも多分、受信者の理解力が低い場合には受信確認を成功させることはできないだろう。


情報の劣化が起きている可能性をリスクとして受け止める
どんな情報も間違っている可能性がある。どんなに常識だと思われている情報も例外ではない。「風邪を引いたら風呂に入ってはいけない」「熱が出たら解熱剤を飲む」「傷口は消毒しなければならない」という常識のためにどれだけの命が危険にさらされたことだろうか*1
またどれだけ受信能力が高い人間でも、自律機械である限りは間違いを犯す可能性がある。正しい情報であっても、それを受信するときにノイズが入る可能性は否定できない。
常に自分の中に所有している間接知財が間違っているかもしれないと心がけていれば、その間違った間接知財を使用して行動を起こしたときの被害を軽減させることができるだろう。
しかしこの心がけにはコストが付随する。完全に自分を信じきって行動することに比べて、自分に疑いを持って行動するときには思い切りの悪い行動になってしまう。その微妙な差が致命的な結果をもたらすかもしれない。
たとえば「青信号の時に交差点を渡っていい」というノウハウ直接知財を信じず、「青信号のときでも左右を確認しながら交差点を渡る*2」という行動をとった人は前者に比べて移動速度が若干落ち、その結果大事な待ち合わせにぎりぎり間に合わなくなることもあるだろう。しかし「信号無視の車にはねられる」というリスクは回避できる可能性が高くなる。

*1:風呂に入らなくても死なへん

*2:関西人の歩行者は赤信号でも左右を確認して安全なら平気で渡っていく。さすがに自動車でそれをする人は基本的にいないが。