娯楽直接知財 その3

娯楽直接知財の再受信 前編


娯楽直接知財は何度受信しても効用を発揮する
一番身近な例は音楽CDだろう。もし一度受信しただけで満足するのならば、わざわざ高いお金を出してCDを買う必要などない。ラジオで一度聞けば十分だからだ。しかし実際は多くの人がCDを購入している。彼らは何度も何度も繰り返してCDを再生し、そのたびごとに効用を得ている。
これは他の直接知財、トリガー直接知財・ノウハウ直接知財にない際立った特徴だ。もちろんこれらの直接知財も再受信の需要はあるのだが、それは受信者が受信の失敗を起こした場合、もしくは受信の失敗が起きていないかを確認する場合に限られていた。きちんと情報を受信できていた場合は、なにもわざわざコストをかけて受信する必要はまったくなかった。
しかし娯楽直接知財においては完全に受信に成功している受信者が、それでも対価を払って再度の受信を行っている。トリガー直接知財・ノウハウ直接知財はその情報の内容を知っていれば受信者は効用を発揮できたのだが、なぜ娯楽直接知財において受信者は内容を知っていることだけで満足できないのだろうか。受信者の脳内に記憶した情報を思い出すことだけで満足できないのはなぜか。


情報蓄積のコスト
情報を正確に記憶することは難しく、できたとしても膨大なコストがかかる。
写真的記憶のような目に映ったものを完璧に記憶できる人間はごく少数しかいない。サヴァン症候群の人間がその代表格だが、普通の人間でも特殊な訓練を受けることで後天的にその能力を身につけている人間は実在する。しかし彼らはその能力を身につけるために驚くほど巨大なコストを支払っている。
そのような特殊な能力がなくても、一冊の本くらいの情報なら暗誦できなくはない。しかしそれにもやはり割に合わないほどのコストがかかる。必要なときに対価を支払って再受信するほうがよほど安くつく。
ただし、たとえば俳句のように非常に短く単純な娯楽直接知財は一字一句間違えずに(なにせひらがなで17文字しかないのだから)記憶することが可能だ。このような情報ならば、受信後、別な時間場所で思い出して効用を得ることができる。
こうして表面的な特徴を見てみると、重大な娯楽直接知財の性質が浮かび上がってくる。今まで僕は娯楽直接知財の性質として「受信時に効用を発揮する」としていたが、実際は「受信時以外には効用を最大限に発揮できない」から受信者は仕方なしに受信時に効用を感じるしかないのだ。
身じろぎも難しい真っ暗な映画館で映画を見るよりも、家のソファでくつろぎながら見たい。できれば大画面でサラウンド音響で鑑賞したい。トイレに行くときには一時停止にしておきたい。ここまでの夢は最近の技術革新で果たされるようになったが、じつはこれでもまだ不十分だ。本当は目をつむっただけで、耳を澄ましただけで質を落とさない状態の映画を鑑賞できるようになりたい。電車の中で、布団の中で、仕事の合間に鑑賞できるようになりたい。しかし今のところこれはできない相談なので、我々は映画館に足を運んだり、リビングルームを改造したりするしかないのだ。
この記憶能力の限界は一種の受信の失敗だ。情報の受信はただ単に正確に受信することだけでなく、正確に蓄積することも含まれているからだ。蓄積に失敗した情報は、後日にその情報を利用しようとした受信者からすれば単純な受信そのものに失敗した情報と同じ程度に役立たずだ。


他の直接知財の蓄積手順
トリガー直接知財・ノウハウ直接知財の場合には後日の利用が可能な程度に蓄積ができて、娯楽直接知財の場合にはできないのはなぜか。前二者の場合に急に記憶力が高まるわけではない。受信者がこの二者の情報を利用する方法が娯楽直接知財と異なっていることにより、記憶方法も必然的に異なることで十分な記憶が可能になっているのだ。
トリガー直接知財の受信者は、トリガー直接知財を利用することで行動を決定しなければならなかった。その受信から行動決定の過程は次のようになる。
1.情報を受信する。
2.その情報が自分にとってどのような意味を持っているかを解釈する。
3.その解釈された意味を主体内に蓄積する。
4.その意味が自分の行動に関与してくる場合にそれを利用する。

たとえば天気予報の場合、どんなに詳しい予報が出されようと、ある受信者にとって重要な意味は「傘を持って出かけるべきかどうか」だけだった。受信した情報から必要な意味だけを抜き出した受信者は、ほんの小さな情報量だけを記憶すればいいことになる。もちろん意味を抜き出しても記憶できないだけの量になる場合もあるが、それでも最初に受信した情報の総量と比べると非常に小さなものになる。


ノウハウ直接知財の受信者はまた別な方法で情報を主体内に蓄積する。
1.情報を受信する。
2.主体内に間接知財を形成する。
3.形成された間接知財が間違っていないか検証する。
4.主体内の間接知財を利用して自律機械としての行動をとる。

ノウハウ直接知財の受信において重要なことは、その知識を使用して行動を決定できるかどうかであって、その情報を一字一句覚えることではない。ほとんどのノウハウ直接知財は、受信者がそれを使用するときには間接知財の形で受信者の内部に蓄積されている。逆に言うと間接知財化していなければ使用不可能なのだ。その知識が必要なときに再受信をしているようでは泥棒を見つけてから縄をなうようなものだ。