トリガー直接知財 情報の取引 その4

2.一方のプレイヤーのみが終了のタイミングを知っているもの
このシチュエーションはさらに二つに分けられる。一方のプレイヤーが終了のタイミングを知っていることを、もう一方のプレイヤーが知っているかいないかである。もうしもう一方のプレイヤーがその事実を知らない場合は、そのプレイヤーはサドンデスのゲームであると信じて行動することになるだろう。
そのため、ここでは一方のプレイヤーが終了のタイミングを知っていて、なおかつもう一方のプレイヤーがその事実を知っている場合のゲームを考察していく。
これはあらかじめ回数が決まっているゲームに似ているが、その回数が片方しか知らないという問題を抱えている。そして終了のタイミングを知らないプレイヤーは、知っているプレイヤーを信用できないため、情報取引を行うことにためらいを感じる。その悪条件の自衛策として、知らないプレイヤーはすべての取引を一回きりの取引にしてしまうことを考えるだろう。こうすれば互いに対等な立場になれるのだが、信用醸成コストが大きなものにつくことを考えると、あまりいい戦略とは言えない。
結局、知っているプレイヤーがこの不信感を取り除くための努力をしなければならない。一つの方法は、もう一方のプレイヤーに終了のタイミングを知らせてしまうことだ*1。これによりゲームはあらかじめ回数が決まっているものへと変化し、作り出された対等な条件は情報取引の成立をスムーズなものにする。だが、知らないプレイヤーは知っているプレイヤーが開示したタイミングを信じられないかもしれない。
ここで少し例を挙げてみよう。海外での現地資本との合弁会社だ。合弁会社は本国資本から情報を受け取り、その情報を元に戦略を立てる。現地資本は合弁会社を100%出資の会社に切り替え、合弁会社が上げる利益を独り占めしたいと考えているが、まだその時期ではないと考えている。ある程度の情報が蓄積されたときまで待ちたいのだ。本国資本は合弁会社からの利益をできるだけ長い期間得ていたいと考えているので情報を渡し過ぎないように気をつけているが、まったく情報を出さなければ逆に合弁会社は利益を上げることができなくなり本末転倒である。
この例は間接知財の例にも見えるが、トリガー直接知財だけでもこのような状況は起こり得る。後日の説明になるが、自律機械内部における蓄積情報の間接知財化が発生するからだ。
例に戻るが、現地資本がどの時点で独立できるだけの情報を蓄積したと考えるかが分からない。もっとも現地資本もまた最初の時点ではどれだけの情報が必要なのかを正確に知ることはできない。そのため、現地資本が本国資本に終了のタイミングを知らせたところで、本国資本はその情報をまったく信用できなくなる。
本国資本は合弁会社に発信する情報にどれだけの対価を取るべきだろうか。価格設定の目標は合弁期間中の情報対価および利益分配金の合計の最大化だ。合弁期間が長いものだと信じられるならば、情報の対価を低めに設定し、合弁会社の成長を促進した上で利益分配金の獲得を目指すだろう。しかし合弁期間が短いと信じるならば合弁企業の成長を待たず、情報対価のみで利益全体の上昇をめざすために情報対価の単価を高く設定するだろう。
現地資本にとっては利益分配金のみが収入であるため、当然、情報対価が低いことが利益の向上に繋がる。そしてできるだけ早く合弁を終了させ、利益分配金を独り占めしたい。しかし合弁終了の意向を前面に押し出しすぎると、本国資本は情報対価を吊り上げ、さらに情報の取引量を制限してくることになるだろう。理想を言えば、合弁は長く続くと本国資本に信じ込ませ、安く大量に情報を入手して合弁企業を早く成長させ、突然に合弁を終了させたいのだ。
だが理想を追いすぎると、取引自体が成立しなくなる。情報の発信者こそがこのゲームで最強の切り札を持っていることを常に意識していなければならない。
この状況で双方のプレイヤーはどのような戦略を組み立てていくだろうか。
本国資本は、合弁企業が同業他社に負けないよう、そして勝たないように情報の取引量を制限し、なおかつ情報対価の単価を高く設定することが最適戦略となる。現地資本は合弁終了の条件を本国資本が信用できる形で示し、合弁企業がそのラインまでぎりぎり成長しないように努めて、できるだけ低い単価で本国資本から情報を引き出すことが最適戦略になる。つまりサドンデスのゲームへと作り変えるのだ。
この双方の最適戦略は結局、情報取引の総量を制限する形で決着するだろう。そして合弁企業がそのポテンシャルを発揮しない形になっているのを見ても分かるように、情報の生産性を落とす形になる。
情報の生産性を最大化させる最適戦略は、現地資本が絶対に合弁を終了させないと宣言し、それを本国資本に信じさせるだけの証拠を提出することだ。そうすれば本国資本は何の気兼ねもなく、情報を安価に発信して合弁企業を成長させることに全力を尽くすことだろう。逆に最初から合弁企業を作らないことも最適戦略の一つだ。現地資本100%で企業を設立し、本国資本からは情報をそれなりの対価で購入し続けることも正しい戦略だ。現地企業が成長することで情報対価の増大が見込めるため、本国資本は情報にむやみな対価をつけることはできないだろう。
これはもう完全にサドンデスのゲームそのものだ。そして上の段落での後者はフランチャイズのビジネスモデルそのものになる。
なお、この例での実現は難しいが、回数が決まっているゲームに作り変えることが最適戦略になる場合もある。

*1:これもトリガー直接知財だ。そして受信者がその情報の価値を確認するのに時間がかかっている。